4 進 展
殻に閉じこもり始めて二日目の朝
早い時間に目が覚めた巨神兵は、いくらか期待しつつ早速PCをチェックする。
朝一番で、これまで音信不通であった同僚Bからメールが入っている。
B>巨神兵
Daisho come in
(巨神兵、来い。)
そんだけーー??
いい加減頭に来た。 早速リプライ
巨神兵>B
what do you mean by come in? you want me to come to the office? what's going on? tell me anyway.
(来いってどういうことだよ? 職場に来いってことなの? 何が起きてんだ? とにかく教えろ。)
この時点で既に人間不信気味の巨神兵は、いくら信頼できる同僚からとはいえ「はいそうですか。」なんて出勤する気には到底なれなかった。
すると今度は何故かAからメールが入る。 これまた短い。
A>巨神兵
Call central he will answer
(職場に電話してみろ。 Bが出るぞ。)
もういい加減疲れてきたのでAの言葉を信じて恐る恐る職場に電話してみる。
プルル プルル
ガチャ
B「巨神兵か?」
巨「B? 何でそこにいるの?」
電話越しに他の同僚達の歓声も耳に入ってくる。 「巨神兵とつながったぞーw」等と盛り上がっている。 どういうこっちゃ?
5 真 実
のらりくらりと出勤した。 ユニフォームを着て来いとのことなので指示に従った。
遅い時間に職場につくと何故か皆普通に働いていた。 ”狐につままれたような気分”とはまさしくこのことを言うのだろう。
さっそくAを捕まえて全てを話してもらう。
事実はこうだ。
(1) 会社倒産はウソだってこと。
(2) これは(無届)のストライキだったってこと。
(3) ウソをついた理由は巨神兵は反対すると思ったからだという。
「お前、忠誠心高いからさw」 この手のストは一人でも欠けると成功しないのだ。
さらに言うと、メールで詳しい説明を避け続けたのは、最悪の状況に転じても巨神兵に責任が及ばないよう”無知”なままにしておきたかったからであった。
これなら単に上官であるスティーヴの指示を忠実に守っただけのちょっと”おバカさん”で済むというわけだ。
ただ誤算が一点。
それは巨神兵が会社(ジャン)からの電話に出ちゃったってこと。 そんで命令に「No」を言っちゃったことだ。
電話するなとは言われたけど、出るなとは言ってないじゃん。 くそー
まずいことに、採用から3ヶ月間は「採用期間」である。
法律により特段の理由もなく会社側は自由に従業員を解雇できるのだ。
ちなみに巨神兵はまだ2ヶ月
一同静まり返る。 アレ、もしかして俺だけ首になんの?
6 尋 問
会社側のジャンが個別に面談(尋問とも言う。)を開始した。 要は犯人探しである。
早速呼び出される巨神兵。 後は野となれ山となれよ。
重い足取りで面談に向かう巨神兵にBがアドバイスする。
B 「巨神兵、お前が頭の切れる奴だってのはわかってんだけどさぁ。 ここはあれだ、俺の言うとおりにしろ。」
彼のアドバイスは以下のとおりだ。
(1) ほんの少ーし頭が足りない奴wの振りをしろ。
(2) chain of command (命令系統)を理解していないような振りをするんだ。 つまり誰が誰のボスであるかが分かってない。(そんなバカなw)
(3) 少し日本語を混ぜつつ説明しろ。 ちょっと足りない奴に見える。
(4) ただしあまりやり過ぎるな、別の理由で首になるぞw
軍に7年も勤めていた巨神兵が、命令系統を理解してなければそれはそれで別の問題になるのだが、ここは素直に従うことにした。 もうヤケクソである。
尋問ルームに目をやると、目を真っ赤にしたジャンが腕を組んで座って待っていた。
おそらく寝てないのだろう。 ちょっと罪悪感
入りまーす。
入室早々、制服についているワッペンは何だ?と聞かれる。 もちろん会社のロゴである。
巨 「うーん。 うちの会社?」
ジャン「そうだ。 俺は誰だと思う?」
巨 「うーん。 ジャンさん。」
ジャン「…じゃなくて、俺はスティーヴの何だと思う?」
巨 「スティーヴの……ボス?」
ジャン「そうだぞ :)」
彼の表情が明るくなってきた。
こんな感じでのらりくらりと核心をかわしつつも彼がブチ切れる前にきっちり答える、なんていう絶妙なバランスを保ちながら時間が早く過ぎるのをただ願った。
Bの思惑通り、命令系統を理解してないと思ってくれているようで、紙いっぱいに「会社」、「ジャン」、「スティーヴ」と「巨神兵」の関係を図を描きつつ誰が誰のボスであるかをきっちりと説明してくれた。 もはや犬の躾けである。
あんたイイ奴よのう、なんて思いつつ熱心な眼差しで耳を傾ける巨神兵
こんな感じで30分ほど経過 同じ事を3回も説明された。 彼もクタクタに疲れている。
演技が過ぎたのかもしれん。
最後にこう聞かれた。
ジャン「一連の行動は誰の指示だ? 名前を言え。」
キターーーー
巨 「スティーヴです。」 あっさり
「Good:) お前は(会社に)残っていいぞ。」
スティーヴとジャンも後ほど個別に話し合った。 面談後なぜか二人とも笑いながら部屋から出てきた。
どうやら穏便に済みそうである。
全てが元に戻った。
巨神兵は再び今までのメンバーと働ける、それだけで十分嬉しかった。
7 理 由
スティーヴが謀反を企てたのは、もちろん会社に対する不満からであった。
ここ2ヶ月ほど明らかな人手不足であるにもかかわらず会社側が一向に人を増やそうとしないのにいい加減ブチ切れていたためだった。
人手が足りないのをカバーするため他のエージェントを休日出勤させたり(給料はでるが。)、残業させたりでなんとかしのいでいた。
彼はそういったもろもろを調整する立場にあるのである。
ちなみに巨神兵もここ2、3週間ほど休みのはずの土曜日に出勤していた。 彼自身それにも罪悪感を感じていたのだという。
俺は給料でるから別に不満ないんだけどね。
あ、日本人だからか。
驚いたことに、昨日3人ほど新人が入ってきた。 これなら全員残業なしで回せそうである。
カナダの会社って行動早ぇー。
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あーーー疲れた。 長ぇー。
ホント今回どきどきしたわ。 でもまぁ、こんなことがたまーに起きちゃうのがカナダの面白いところ。
事態が最悪化しそうだったとき、何故か当事者の俺よりも泣いて悲しんでくれた妻ステファニーにここで謝らさせていただきます。
仕事って大切ですねぇ。
あれ…そういえば紹介だけして「C」の出番が無い。
まぁいいや。
ここまで読んでくれた皆様ありがとございます。
したっけ :)
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